Jun03

1976年 米国ワイン史に残るもう一つの出来事

NYのワインニュース

1976年はアメリカのワイン業界にとって歴史的な年であった。ワイン関係者なら誰もが知る『パリスの審判』以外にも、その後のアメリカのワイン産業に大きな影響を与える出来事がもう一つあったことは、あまり知られてはいない。それはニューヨーク州における「ファームワイナリー法」の施行である。

Farm Winery act 1976

1976年5月24日、世界中のワイン関係者を震撼させたある事件が起こった。アメリカ独立200周年を記念して、フランスとカリフォルニアのワインのブラインドによる比較試飲会がパリで開催されたのだ。審査員には、当時のフランスを代表するワイン関係者が選ばれた。そして当時無名に近かったカリフォルニアワインが、著名なフランスワインを抑えて赤白共に優勝するだけでなく、誰にも予想がつかなかった結果になったのだ。ワイン業界にとっては歴史的なこの出来事は後に『パリスの審判』としてワイン業界に語り継がれており、そしてこれを契機にカリフォルニアワインは大きな成長に向かっていく。

jop-judgestable

その約10日後の1976年6月4日、ニューヨーク州では一つの法律が可決された。それは「ファーム・ワイナリー法」といい、小規模なワイン生産者(ブドウ栽培者を含む)がレストランやショップに直接ワインを販売することを可能にする法律。それまでは禁酒法時代からの名残で酒の販売には規制が多く、生産したワインの95%以上を卸業者に販売しなければならず、ワイン生産者は自分の作ったワインを自由に売ることは出来なかった。この法律は直接販売を可能にしただけでなく、ワイナリーの登録申請料を当時の$1,600から$125に引き下げたのだ(現在のドルの価値と為替レートに置き換えると約75万円から約6万円への引き下げになる)。この法律の施行によって、それまでブドウ栽培しか行えなかった農家がワイン造りに乗り出すことも増え、その結果ニューヨーク州のワイナリー数も急速に増えて行くことになる。1976年には15軒程度しかなかったワイナリー数が、1980年代には100軒近くになり、2000年には125軒を超えた。そして今世紀に入ってからもその加速は衰えておらず、2015年には400軒を超える数のワイナリーがニューヨーク州に存在するようになった。

Winery growth in New York State by county  New York Wine & Grape Foundation

この法律はニューヨーク州だけではなく、米国内の他の州へも大きな影響を与えた。似たような法律を既に可決している州は他にもあったが、ニューヨーク州程のインパクトはなかった。その当時からワイン造りの産地として米国内では知られ、全米第二位の生産量を誇っていたニューヨーク州。そして今も昔も、金融、メディア、文化の中心地であるニューヨークだからこその影響力も大きい。1976年にニューヨーク州で可決されたこの法律は、その後のアメリカ国内における新ワイナリーの急増へと繋がっていく。米国内で1976年当時600軒に満たないワイナリー数が10年後には倍増し、現在は10,000軒を超え、そのほとんどが小規模な生産者である。

このように1976年におきた「パリスの審判」は世界的な大きな影響を与えたが、ニューヨーク州の「ファーム・ワイナリー法」は米国内のワイナリー数急増に大きな影響を与えた。この1976年におきた二つの出来事が、今日のアメリカワイン産業の隆盛に大きな影響を与えていることは間違いない。

≪参考≫
”U.S. wine changed forever 40 years ago, but not just at a blind tasting in Paris”, The Washington Post, May 23 2016
世界を変えたワイン・テイスティング--パリ対決」
https://twitter.com/visitfingerlake
”It Was 35 Years Ago Today: The Judgment of Paris/Beatles Mash-Up! ”
How the wine industry spread across New York state and grew into a $4.8 billion business

TOP